ライトノベル出身作家、米澤穂信の一般文芸第一作目、青春ミステリー。
高校生の守屋は雨宿りするひとりの少女マーヤと出会う。彼女はユーゴスラビアから日本にホームステイするためにやってきた。守屋はマーヤと親しくなるうち、彼女の国に興味を持つが…
出版社:東京創元社
一気読みである。
去年の「このミス」で大きく紹介されていて、気になる作家だったが、本書を読んでその実力の程を見せ付けられた。何てすばらしい作家が登場したのだろう、という思いで一杯だ。
本書はユーゴスラヴィアからやってきた少女と高校生の、端的に表すならボーイ・ミーツ・ガールものだ。
一場面ごと、何気ない、しかし後に意味をもってくる数々のエピソードが印象深い。そこにあるのはまぎれもない青春小説の味わいなのだ。ライトノベル出身ということで、一部ライトノベルの手法っぽいのもとられているが、それをうまく生かした構成も目を引く。
それに所々で、北村薫のような些細なできごとの謎解きエピソードをちりばめていて、飽きさせないつくりがおもしろい。
そしてラストのマーヤが帰った国がどこかという謎の結論もそれまでのエピソードを無理なく繋ぎ合わせ、一つに収斂していく。
ひと言で言うなら、格別にうまいのだ。
もちろん構成だけがこの作品の良さではない。主人公の少年の思いがこの作品では大きく光っている。
一人の少女に出会い、その少女のとりまく状況に興味を持ち、動き出していく少年。しかし少年には何ができるというのだろうか。日本という平和な状況下で、彼が真に取りえた行動とは何があったのだろうか。それが言うなれば本書の読みどころだろう。
彼が「ドラマティック」にすがりたかっただけだ、と独白するくだりはなんとも言えず胸に迫る。
そしてラストが実に切ない。胸苦しさを強烈に突きつける秀逸のラストである。余韻がなんとも言えずいい。
個人的には最近デビュー組の中では、伊坂幸太郎や辻村深月よりも好きなタイプかもしれない。
米沢穂信。もっと注目されていい作家だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)